エヴァン・マッキー インタビュー
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2012年6月20日 :
エヴァン・マッキー インタビュー
シュツットガルト・バレエ 4年ぶりの来日公演、東京と大津・びわ湖ホールでの 『白鳥の湖』
に主演したプリンシパルのエヴァン・マッキーに、ダンソマニ日本語版が e-mail
でインタビューしました。 ダンソマニへの登場は、昨年12月にパリ・オペラ座 『オネーギン』
公演に急遽出演して、センセーショナルな成功をおさめた時のインタビュー以来で2回目。 クランコ版の白鳥について、日本公演について、9月に東京バレエ
団と共演することになっている 『オネーギン』
について、それからちょっとだけエヴァン自身についてと、さらには来シーズンの予定まで、たっぷり質問しましたので、お楽しみください。
Sleeping Beauty
<Q1> まずは、シュツットガルト・バレエ来日公演 『白鳥の湖』 のご成功、おめでとうございます。 素晴らしい公演でした。
日本ではクランコ版の 『白鳥の湖』 は初めての上演だったように思いますが、シュツットガルト・バレエはどのくらいの頻度で上演しているのでしょうか。
(Evan McKie: )
ありがとう。 日本の皆さんにクランコ版の僕のジークフリードを見てもらうことができて、とても嬉しかった。 クランコ版のジークフリードは、振付が豊か
で、そこからさらに物語を伝えるいくつもの可能性があるんだ。 僕たちは3~4年に一度 『白鳥の湖』
を上演していて、僕がドゥミ・ソリストだったときにシュツットガルト・バレエで初めて主演した作品なんですよ。
<Q2> クランコ版の 『白鳥の湖』
はとても暗く、救いようのない悲劇ですね。 でもドラマに引き込まれました。 クランコはジークフリード王子をストーリーの軸に据えて、王子の心情を語る
ことに集中しているので、オデット/オディールでさえ脇役に回っているような印象を受けました。 話の全ては王子を中心に展開しています。 王子は最後に
死んでしまいますが、しかし観客は (私は)
オデットが王子を本当に愛していたのかわからない。 とても謎めいていました。 このジークフリード王子について、どのように捉えていますか。 オデット
との関係は? クランコ版の 『白鳥の湖』 についてもどう思われているかおしえていただけますか。
僕は、クランコ版はオデットとジークフリードの愛がいかに運命づけられたものであるかに物語の焦点を当て
ていると思っている。 そうすることで、おとぎ話がより現実味を帯びるし、観客にとって更に悲劇性を感じられるものになるから。 結末も決して甘く幸せな
ものではない。 僕は観客はわかっていると思うのだけど、オデットはジークフリードを愛しながらも、自分が置かれている状況からジークフリードと一緒にい
られる時間はわずかしかないことを痛いほど知っているんだ。 そのことによって、二人の愛 (それとオデットの性格) が悲痛なほどに
はかないものになり、舞台の上で二人が一緒に過ごす時間がより一層大切なものになる・・・だから、普通とは違う危険とも言える状況に陥っても、お互いを離
そうとはしないんだ。
<Q3> ジークフリードを初めて踊ったのはいつ? やりがいがある役だと思いますか?
僕がジークフリードを初めて踊ったのは、2004年か2005年だと思う。 この役の好きなところは、バ
レエの身体的なテクニック面はロシアの起源に忠実な一方で、クランコが加味した部分で少しだけより "人間らしく"
いられるチャンスがあるというところ。 王子は全四幕全てに出番があって、たくさん踊る。 ほかの版では観客に向けて演技をするということがあるかもしれ
ないけど、クランコ版ではそこまで観客を意識して演じることがないようにするのが重要だと心から感じているんだ。 僕としては、そうしてしまうと、クラン
コ版におけるこの役の基盤である王子の "内省的"
という特質を奪うことになる。 このバレエには多大なる敬意とニュアンスをもって臨まなければいけない。 ただの "show"
ではないんだ。 僕の恩師である故ピョートル・ペストフ先生は、『白鳥の湖』
は、踊る人間の資質によって、古典バレエの中の事実上もっとも美しい作品ともなり得るし、その全く逆にもなり得る、とよく言っていました。 この役を踊る
ことを楽しみましたよ。
<Q4> ほかの版のジークフリード王子を踊ったことはありますか? もしなければ、踊ってみたいと思う?
踊ったことはないけど、近々踊る予定はあります。 ヌレエフ版のアダージオ・ソロは、すごく踊ってみたい。 エック版やボーン版も経験できたら、きっと素晴らしいと思う。
Onegin
<Q5>
カンパニーは現在4年ぶりの日本公演中ですね。 ご存じのとおり、昨年日本は東日本大震災に見舞われ、それによる福島第一原発の事故も起きました。 来日
公演に際しては、反対意見もあったかと思いますが、カンパニーはどのように決断したのでしょうか。 日本に来ることについて、どう思っていましたか。
僕は最初から来日公演はあると思っていましたよ。 日本のファンたちがそれまで以上に日常生活に芸術を本
当に "必要としている" と聞いて、人生は短いのだから心配ばかりしてられないと思った。 リード (・アンダーソン芸術監督)
が、カンパニー全体を集めて、原子力の災害とその後の影響についての専門家である科学者も同席したミーティングを開いたのです。 来日公演への参加を強い
るようなことはされてない。 その代わり、現実的にどのようなことが起きると考えられるかについて説明を受けました。 数ヶ月後、カンパニーの全員がこう
して日本にいる。 シュツットガルト・バレエと日本とのほかにはない特別な関係を裏付けているよね。
<Q6> 来日公演中、地震も何回かありました。 しかも、そのうちのいくつかは小さくはないものでしたし、回数も頻繁です。 (日本に住んでいる私たちでも不安に感じるほどですが) カンパニーの皆さんは大丈夫でしょうか。 あなたは?
心配はしてないよ。
<Q7>
今度は、あなた自身のことについてお聞きしたいと思います。 シュツットガルト・バレエには、1年間の研修期間を経た後、2002/03
シーズンにコール・ド・バレエとして入団、2009/10 シーズンにはプリンシパルに昇進しています。 早かったと思いますか?
それとも準備はできていた?
僕の役割のすべては自然な成り行きで起こるもの。 若いときから既にもっと大きな役にどんどん取り組みたい、それも自分のやり方でやりたいと思っていました。 役をどうしたら生き生きと演じられるだろうと空想にふけっていたよ。
<Q8> 2005年のシュツットガルト・バレエ来日公演では、東京での 『オネーギン』 にマニュエル・ルグリが客演しましたが、そのときのツアーには参加していましたか? 2002年の日本公演は?
マニュエルが出演したときは、参加していました。 レンスキー役の代役に入っていたのと、『ロミオとジュリエット』 のパリス役を踊りました。 マニュエルはツアー中、たくさん手助けしてくれて、親切に接してくれたのですよ。
<Q9> 日本には何回くらい来ている?
足りないくらい!
<Q10> 日本で好きな場所もしくはエリアはありますか?
東京の表参道が静かでエレガントで好きですね。 一度表参道にある素敵なレストランに行ったのだけど、名
前を忘れてしまって、未だにどこだったのか探してるんだ! 京都も好きだし、東京の渋谷ではいつも新しい場所を発見してる。 渋谷にある 白クマ
だけが目印の特に名前もないところに行ったんだけど、くつろいだ雰囲気でいいところだった。
<Q11> 写真を撮るのが好きだというのをどこかのインタビューで読みましたが、今も写真は撮っている? 是非見てみたいのですが。
四六時中撮ってるよ。 抽象的な人物像がほとんどで、来年中には二回目の写真展を開く予定なんだ。 うまくいけばね。 実は近いうちに一冊の写真集にまとめたいと思ってるところ。
<Q12> 料理はする?
するよ! だけど、たっくさん外食もする
<Q13> あなたは背が高くて美しいラインを持っているけど、それはご両親から受け継いだものですか?
父と兄/弟は背が高くて細身。 母はボタンみたいにキュートなんだ! ("My mother is cute like a button!")
<Q14> 9月にはもう一度来日して、東京バレエ団と共演しますね、 それも 『オネーギン』
で。 前回のダンソマニ・インタビューの時に、オネーギンは大好きな役の一つだと答えていらっしゃいました。 今回の東京バレエ団への客演について、
NBSはリード・アンダーソン氏の強い推薦があったためと認めていますが、そのことは聞きましたか?
とても嬉しいことです。 なぜなら、彼 (リード・アンダーソン)
は世界中のオネーギン一人一人を見ているのですから。 しかもそのいくつかは素晴らしいオネーギンなんですよ! それに、これはつまり、僕に、シュツット
ガルトにあるカンパニーから外に出て、オネーギンやそのほかの役をゲストで踊る機会をたくさん与えてくれているというジェスチャーなんだ。 シュツットガ
ルトでいくつかチャンスを逃しているけど、それはシュツットガルト以外の観客の前で踊ることも重要だと感じているから。 バランスの取り方が難しいけど
ね。
Le Poème de l'extase
<Q15> 東京バレエ団との共演は初めてになりますね。 楽しみですか?
日本のカンパニーとも日本のバレリーナとも一緒に舞台で踊るのは初めて。 でもとてもいいものになりそう
だと感じているよ。 共演のレンスキー役はマライン・ラドマーカーで、これは予定されてなかったのだけど、最終的におまけってことになったんだ。 僕たち
には二人だけの化学反応があるし、自分たちの役に対する共通の敬意を持っている。 日本のファンサークルに対してもね。
<Q16> リハーサルはいつから?
世界バレエフェスティバルの最中。
<Q17> 日本のバレエファンたちはあなたのオネーギンを楽しみにしています。 ダンソマニの読者たちは皆、昨年12月のパリでのセンセーショナルな成功を知っていますから。 あのときのパリでの出来事を思い出したりしますか?
よく思い出すよ。 オーレリーやオペラ座のほかの友達ともよく話をするから。 面白いのが、ミリアムと
ジョシュアがパリでの僕のオルガとレンスキーだったのだけど、二人ともエトワールに昇進したんだ! 彼らは僕にはとても優しくしてくれた。 パリ・オペラ
座とパリの観客は、愛と敬意を持って僕のことを包み込んでくれたのだけど、それはパリではあまりないこと。 あの経験は、時間的制約から、まるで精神力の
テストみたいだったけどね。 でも、リード・アンダーソンは僕のことをものすごく信頼してくれていたし、ブリジット・ルフェーブルも、ほんの少しリハーサ
ルしただけでオーレリーと初日を踊るようにリクエストするなんて、とんでもなく思い切ったことをしてくれたんだ。 二人ともすごくリスクを取るタイプ。
そういうのは好きだ。
<Q18> 最後の質問です。 来シーズンについてお聞きしますが、どの演目に出演するか既にわかっていますか。 その中で一番楽しみなのは? 東京バレエ団との 『オネーギン』 のほかにはゲスト出演の予定はあるのでしょうか。 ガラは?
いくつか素敵なガラの予定が、あるよ。 でも、ナショナル・バレエ・オヴ・カナダとの関係は続けていくこ
とにしているし、ゲスト・アーティストとして再び韓国で踊る予定もある。 シュツットガルト・バレエのモスクワ公演、上海、北京へのツアーにも参加する
よ。 同じくものすごく楽しみなのは、僕のメイン・サポーターの一人マリシア・ハイデが、チリの彼女のカンパニーに招いてくれていて、『パキータ』
を踊ることになってるんだ。 ほかにもいくつかエキサイティングなことが進行中だけど、まだ最終決定してない。 面白いことに、自分の本拠地のシュツット
ガルトで何を踊るかがわからないんだ! でも、サプライズは大好きだよ! 僕の今までのキャリアは全部、自発性 spontaneity
っていうマーク付きなんだ。
エヴァン・マッキー - インタビュー:廣川 瑞子さん
2012年6月20日 e-mail にて回答を受信 © 2012, Dansomanie